本書は「ユダヤ人はなぜ優秀なのか」という若い頃の私の単純素朴な疑問に発した半世紀の関心と研究の集大成ではありますが、本書成立の直接の動機は5年前(2006年)に行った講演 将来予測「米国、ユダヤ人、キリスト教」です。
「米国」と「ユダヤ人」と「キリスト教」を並列した理由は、米国という国は「ユダヤ人」と「キリスト教白人」(White Protestant)との熾烈な争いの国なので, 将来を予測するには両者の戦いを読みきることが必要だからです。
1章と2章では, ユダヤ人について「100年前」と現在の「落差」を強調しました。ユダヤ人の完全独占に近い「投資金融市場」の現在と「White Protestant」だけの活躍し, ユダヤ人は手も足も出なかった100年前の「米国の産業革命」です。
100年前、ユダヤ人ではないがWhite Protestantである
4章はユダヤ人はセム族(中東人)なのか白人なのか、なぜドイツ、ロシアに多かったのかに答える章です。次の5章はスペインのColdobaでIslam教徒と平和共存していた知的で豊かな「Sephardi」(セファルディ)ユダヤ人に関する章です。
Sephardiが生んだのが哲学者「Spinoza」(スピノザ)で, この人こそ、キリスト教が作った「中世の暗黒」に灯をともし、ギリシャ時代にあった「理性」を取り戻すというとてつもない困難をやった人であることを紹介します。
その困難とはキリスト教世界におけるAtheism(エイシーイズム) のこわさです。「Atheism」は無神論と訳されていますが、キリスト教の社会では, 決して口にしてはならない言葉です。それを知らないで口にした私の忘れがたい衝撃を101
Pageのイラストが示しています。これは本書の Top Messageです。
6章は「Ellis 島」を通って米国に移住した極貧の200万人のスラブ語系ユダヤ人の話です。Imageは 88 pageのイラスト
ところが「White Protestant」である米国白人は心情的には世界最強の「反ユダヤ主義者」です。そのために1923年, 突然「ユダヤ人の移民」を「完全禁止」しました。なぜそんなことが可能だったか、米国人の反ユダヤ主義の強さと根源を探ったのが第7章です。その根源を示したイラストが155 page にある「Pilato」(ピラト)が手を洗う図です。
8章は, 現在と同じ「金融崩壊危機」のあと米国がたどった必然
本書ではまずかれが, 「Humanist」には程遠い極端な差別主義者であったことを示しました。179 pageのイラストはそのImageです。その上で統計データに基づいて「New Deal」が失敗であったこと、その結果として日本を戦争に引きずり込まねばならなかった必然性を論証をしています。
でも世界中でのユダヤ人迫害で絶滅の危機さえ危ぶまれたユダヤ人が「受難から復活へ」のきっかけをつかめたのは、ユダヤ人だけの手で「原子爆弾」を完成し、戦後の米国の世界覇権に大きく貢献したことです。これを書いたのが8章です。
9章は完全復活したユダヤ人が、「発明の才」にたけた「米国白人」と四つに組んでしのぎを削る「情報技術革命」の物語です。著者がくわしい分野である上、近景・遠景・拡大図の方法を駆使した記述で
常識の歴史を大きく書き換えているので、専門外の人にとっても、面白く役に立つ話になっていると思います。
本書では, 常識を超える話、常識を逆転させる話が、随所にでてきます。それらについて、 その根拠を自分で確かめたい読者のために、根拠となった統計資料、技術資料、歴史資料については、読者が Internet を用いて、すぐ確かめられるものを中心に、「資料、参考図書」に網羅的に掲出してあります。
本書の本としてのStyleは今迄の日本の出版界の常識にないものですが、これについての最小限の解説は「あとがき」をご参考下さい。その一つに数字の読み方があります。本書では、4桁区切りの「万」「億」を使わず、3桁区切りの「メガ」「ベガ(ギガの別称)」を用いています。Million Dollar はM dol (メガドル)Billion DollarはB dol (ベガドル)です。
「全体像」をつかむ方法論としての「近景・遠景・拡大図」の方法につても「あとがき」をご覧下さい。
Oct. 5, 2011 西村 肇