Jim Nishimura Web site

科学の真理、学問の自由、大学の自治に関心の深い方々へ
科学者には恐ろしい結果になる 名誉毀損訴訟の実状

6年前、東大農学部のある教授が「水俣病の科学」は12,500倍も誤っているとする「でたらめ」の中傷投書を学術誌に発表し、その結果、同書の出版停止と毎日出版文化賞取消し要求を招いた。この投書にはデータ改ざんなど、研究者が絶対に犯してはならないルール違反があったので、「水俣病の科学」の著者である西村は、東京大学の科学研究行動規範委員会に同教授の行為を告発し処分を求めた。同委員会は教授の倫理違反は認めたが、投書にかかわる行為は東京大学で行った実験・研究ではないとの理由で処分はしなかった。
 ところが、同教授はこの告発文書が自分の名誉を毀損したとして550万円の損害賠償を求める訴えを東京地裁に起こした。これを受けた裁判所は一審で330万円、控訴審で110万円の損害賠償を、中傷投書の被害者である「水俣病の科学」の著者(西村)に対し、加害者である東大農学部教授に支払うよう命じた。

この不可解な司法判断が起こった最大の原因は、「水俣病の科学」の著者が、大学人である科学者間の争いや問題は学問の自由=大学の自治の原則に照らし大学内で解決すべきであると信じて、この問題の発端となった同教授の投書による名誉毀損行為を外部の裁判所に一切訴えなかったことにある。
 学問・研究に関連する争いは研究者の間で解決し、これを裁判所に持ち出して裁定を仰ぐことはしないのが科学研究者の鉄則である。これを守る科学者は名誉毀損の民事裁判を起こすことなど考えたこともないし、起こされてもそれに応ずる気持はない。やむなく裁判所に呼び出されれば、訴訟を起こした本人と対決して真実を述べれば良いと思うだけである。
 ところが民事裁判は違う。民事裁判は多くの場合、ほぼ完全に訴訟人ペースである。自分に都合の良い点だけを集めて理屈を立てれば、裁判所は大筋でそれに従う。反論の多くは筋違いとして無視される。訴訟人が名誉毀損をしたことがそもそもの原因であるのに、こちらが名誉毀損されたとして先に訴訟を起こしていなければまず無視される。「先に訴えた者が勝ち」の世界である。

結局今回の件は次のことを明らかにした。つまり、学問の自由と研究者の自治を守るために学問・研究上の争いを裁判所に持ち込まないことを信条としている科学者を相手にした場合、弁護士と組んで名誉毀損訴訟に勝つことは、赤子の手をひねるのと同じように簡単だということである。科学者の側に民事訴訟で争う気持も用意もないからである。その結果が今回の件である。不正引用とデータ改ざんを用いた投書で私の著書を中傷攻撃した某教授が、大学に研究者倫理不正を告発されると、告発の事実ではなく、その字句を問題にして私を名誉毀損で提訴した。判決は、中傷されたがそれを提訴せずに、大学内での告発にとどめた被害者である私のほぼ完全な敗訴であった。真面目な普通の科学者にとって恐ろしい話である。二度と起こってはならない司法の迷走である。

このような司法の迷走を食い止めるために必死になって書いたのが最高裁に提出した本上告書で次の通りです。

最高裁への提出書類
上告理由書
i
表紙
ii
目次詳細
iii
本文
iv
添付論文
上告受理申立理由書
i
表紙
ii
目次詳細
iii
本文
 


一審(東京地裁)と控訴審(東京高裁)の裁判資料
1)〜5) 訴訟以前の文書、6)〜11) 一審における文書、12)〜14) 控訴審における文書
1) 鈴木 譲  日本水産学会誌「会員の声」欄 投書-1 (2007.9)
2) 西村 肇  東大への告発経過 (HP掲載 2009.7.15)
3) 鈴木 譲  日本水産学会誌「会員の声」欄 投書-2 (2010.1)
4) 河野 迪子 日本水産学会誌「会員の声」欄 投書 (2010.5)
5) 藤木素士ほか メチル水銀の魚体への蓄積機構に関する研究 “藤木論文” (1975)
 a. 原版コピー(著者に直接依頼して入手したもの)
 b. ワープロ版(手書き原版をWordとExcelで正確に書き直し、読みやすくしたもの)
6) 鈴木 譲 訴状 (2010.4.28)
7) 西村 肇 反訴状 (2011.9.30)
8) 意見書 山森邦夫、河野迪子、古川清 (2011.9.30)
9) 陳述書 山森 邦夫 (2012.4.30)
10) 原告(鈴木譲)本人調書(抄) (2012.7.2)
11) 東京地裁判決 (2012.11.8)
12) 審査報告書(査読書) 山森邦夫、河野迪子、古川清 (2012.12.31)
13) 陳述書 久保田 宏 (2013.2.15)
14) 東京高裁判決 (2013.9.17)

本上告書は「水俣病の科学」の著者が正しいと信じていることを科学者の論理と言葉で論述したもので、あえて弁護士の助力は求めませんでした。その代わり、東大農学生命科学研究科元助教で水圏生物科学専攻である古川清氏の助力を得て共著したことを申し添えます。

2014年3月3日                                         西村 肇
                                        E-mail: jimnishimura@aol.com
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