西村 肇 申立書 別紙
鈴木譲教授は、自身の公式ホームページ(文献1)に、研究業績として、日本水産学会誌に「会員の声」として発表した論文『魚体へのメチル水銀蓄積について
-----「水俣病の科学」の誤り』(文献2)を転載しています。
鈴木論文の主張は「メチル水銀はエサを通して魚に摂取されるのであって、エラを通し海水から直接に摂取されるとした『水俣病の科学』は明らかに誤りである」というものです。鈴木教授がこの主張するにあたり、自説の基礎に用いたのは、藤木素士、弘田礼一郎、山口誠哉
の実験研究報告「メチル水銀の魚体への蓄積機構に関する研究」(文献3)です。
ところがこの論文には、典拠文献の取扱いで、研究者の行動規範に。違反すると思われる不正がありましたので申し立てます。
1) 典拠文献の選択における不正
鈴木教授の論文は、藤木らの研究の実験結果を典拠としておりますが、典拠文献の選択と引用に関し、研究者倫理に違反する点があります。
この藤木らの報告は、水俣湾埋立工事の生態影響を調べるため、環境庁が藤木らに委託した研究報告ですが、埋立問題の微妙さゆえに、完全に部外秘とされています。したがっていかなる図書館でも閲覧できない文献です。(私自身は、鈴木論文の発表後、藤木教授に事情を話して恵与されました。)ところが、この研究そのものは、その後、米環境庁主催の日米専門家会議で発表されました。(文献4) これは、米環境庁に申し込めば、コピーを入手できます。
鈴木教授はこの論文で、まったく入手できない報告を引用しながら、専門家向きに公開された論文を文献に示さないという研究者倫理違反を犯しています。これは、読者が鈴木教授が典拠とする実験結果を、直接見るのを妨げる不正行為と考えます。
2) 典拠文献の引用の仕方に見る不正
2-1) 典拠文献の結論の無視と逆転利用
藤木らの研究は、魚のメチル水銀蓄積が、海水、餌、浮遊泥のいずれを通じて起こるかを、タイを使った実験で調べたものです。結果は明瞭で、結論も明瞭です。英文論文の結論は、「食物連鎖による蓄積は予想外に小さく、決定的に重要なのは、海水中の溶存メチル水銀の取り込みである」となっています。和文報告の方では、「食物連鎖よりもむしろ体表面からの吸収による蓄積が主体である」となっています。
鈴木教授は、これほど明瞭な結論に接しながら、これを完全無視して自説に執着しているだけでなく、この結論が、直接見られないという事情を利用して、この報告を、その逆である自説を支持する実験結果として引用しています。
2-2) 典拠文献の主要結果の隠匿
典拠文献が入手困難あるいは不可能な時は、典拠文献の主要結果を正確に転載引用するのが、引用者の義務です。藤木報告の主要結果は、「図2.各群におけるメチル水銀蓄積曲線」という一枚の図にまとめられています。(文献2の図2あるいは文献3のFig.
3) ところが鈴木教授は、この図を転載していません。この図からは、メチル水銀の取り込みは、餌からではなく、海水からであることが一目瞭然であり、自説が成り立たなくなるので、これを隠匿したと疑われます。
2-3) 典拠文献の主要データの改ざん
自説を否定する一次データを秘匿した上で、鈴木教授が自説を主張するために取ったのは、「吸収係数」とでも言うべき二次データを勝手に定義し、エラ呼吸理論から推定したこの係数が、実験から算定した係数と大きく乖離することを発見し、エラ呼吸そのものを、否定することです。
吸収係数は =(蓄積速度)/ (海水中のメチル水銀濃度) と表せますが、一次データを示さないで、いきなり二次データを発表する場合は、実験データについては実験者の、理論計算については、理論提出者のチェックが必要と思います。鈴木教授は、メチル水銀を扱う実験は未経験であり、エラ呼吸理論の基礎である輸送現象論の理解も不十分とおもわれるからです。しかし鈴木教授はそれをまったくしていません。しなかったばかりでなく ●●●●●●●●●●●●●●●●
鈴木論文では、藤木らの研究でのメチル水銀の蓄積速度が
「魚体への 0.18 ppb の蓄積が認められた(終濃度 0.33 ppb, 開始濃度 0.15 ppb)」
と表現されていますが,これは藤木報告のデータとはまったく違います。藤木報告の表1では、
終濃度 0.033 ppm, 開始濃度 0.012 ppmしたがって蓄積量は 0.021 ppm= 21 ppb です。
これは、海水からの取り込み実験の結果を、●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● 鈴木論文の値が、0.18
ppb ではなく、0.018 ppb であったなら、「単位の読み違いでした。ごめんなさい」で済むかも知れませんが、桁を一つずらしてあるので、●●●●●●●●●●●●●●
添付文献
1) 東京大学公式ホームページ 鈴木譲
2) 鈴木譲 「魚体へのメチル水銀の蓄積について-「水俣病の科学」の誤り」
日本水産学会誌 vol.73, No.5, September 2007 会員の声
3) 藤木素士、弘田礼一郎、山口誠哉「メチル水銀の魚体への蓄積機構に関する研究」
50年度環境庁公害防止等調査研究委託費による報告書 水俣病に関する総合研究
4) M. Fujiki, R.Hirota, S.Yamaguchi "Study on the mechanism
of methyl mercury accumulation in fish"
Proceeding of the second U.S. Japan expertsユ meeting October 1976
Environmental Research Laboratory, U.S. Environmental Protection
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